2014年11月13日木曜日

恐怖


 雨の中、閉まり始めた踏み切りの前で、傘をさしながら電車が通り過ぎるのを待っていると、踏み切りの真ん中にくしゃくしゃになったかたまりが見えた。

 ここは魔の踏み切りで、一度閉まるとなかなか開かない。私はしばらくその物体をながめることになった。2、3回電車をやり過ごすと踏み切りがやっと開いた。私は線路を渡って物体に近づくが、途中で再び踏切が鳴り始めた。あわてて横断しようと小走りに渡ってますます物体に近づいていくと、何とそれは真っ二つになった猫だった。

 半分ミイラ化していて、花が数本死骸の上に添えてある。誰かが轢かれた猫の死体をわざわざ運んで通路の真ん中に置いたとみられる。頭がおかしい者の犯行か。振り返ると後ろから線路を渡ろうとしている小学生の女の子。私はすばやく傘を閉じてその先端で死骸をどかして線路の脇の草むらに放り込んだ。傘の先端についた泥のような死肉の一部を、道路の表面のアスファルトでこすってけずり落とそうとしたが、うまくとれない。仕方なく中途半端に汚れがついたまま、傘をさしなおして踏み切りを渡った。
 
 仕事の帰りに、終電が終わって開いたままになっている踏み切りに戻ってきた。するとまた昼間見たあの塊のようなものが前方の視界に入ってきた。嫌な予感がした。近づいてみるとあの猫の屍骸だった。わざわざ通り道の中心に戻してある上に、また花がちりばめてある。気持ちが悪くなってこんどは遠くまで死骸を飛ばして、容易にみつからないようにした。一体誰がやっているのだろう。小中学生のいたずらか、狂った中高年か。もし三度目があったら警察に言おう。

 次の日の朝、カラスの声がうるさいので何だと、ドアを開けて家の外に出た。すると、同じ死骸が家の前にほうり投げてある。「なんだこれは・・・」誰がなんの嫌がらせでやっているのだ。動物の仕業だろうか。それにしても、見つからないように放り捨てたあの死骸を見つけ出せるのはおかしい。箒でゴミ袋に放り込んで、出勤するついでにゴミに出した。

 仕事から自宅へ帰ると今度は死骸がポストに放り込んであった。ゴミ収集車がもっていったかどうかまでは確認できなかったが、袋は外から何が入っているかわからないようにしたはずだった。
 死骸のゴミだしを監視できる場所は近所の家か、近くのマンションか。疑心暗鬼におそわれる。監視カメラを設置することにして、死骸はわざわざ家から離れたコンビニのゴミ収集箱にいれさせてもらった。コンビニまでの途中の路はあとをつけられないように用心したので、どこに捨てたかは見られていないはずだ。

 次はさすがに死体はどこにもなかった。ただ死体にかけられていた枯れた花と同じものが家の前に散らばっていた。設置した監視カメラに映っていたのは、以前家の付近で路上駐車を注意した小太りの中年の男だった。やつはどこに住んでいるのか。どこからこちらを見ているのか。警察に通報してまもなく、男は捕まった。やはりマンションに住んでいた。その後男は引っ越して、二度と同じことは起こらなかった。
 
 事件の数年後、投石で家の窓ガラスが壊された。そして外出して気がつくと、線路の真ん中に茶色い物体が落ちていた。




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